LB021_職場におけるパワーハラスメントの防止について企業がまず行うべきこと
2026/09/24
職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)の防止について、企業がまず優先して行うべき対応や法的な義務、具体的な実施手順についてまとめます。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」といいます)の改正により、企業には職場におけるパワーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置を講じることが法的義務として課されています85。
大企業では2020年6月1日から、中小企業においても2022年4月1日からこの防止措置が完全義務化されました2942。
職場におけるパワーハラスメント防止と企業の義務の概要
労働施策総合推進法第30条の2第1項は『事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。』と定めています85。
厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)では、職場におけるパワーハラスメントを以下の3つの要素をすべて満たすものと定義しています2535。
- 優越的な関係を背景とした言動:
職務上の地位が上位の者による言動だけでなく、同僚や部下による言動であっても業務上の知識や経験で優位にあり協力を得なければ業務遂行が困難な場合などを含みます133134。 - 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動:
社会通念に照らし、当該言動が明らかに業務上の必要性がない場合や、その態様が不相当であるものを指します131。 - 労働者の就業環境が害されること:
当該言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業上看過できない支障が生じることをいいます134。
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、2つ目の要素を満たさないため、職場におけるパワーハラスメントには該当しません119122。
事業主がこれらの法的措置義務を履行しない場合、都道府県労働局長による助言、指導、勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表される行政処分上のリスクが存在します345988。
また、企業がパワハラ防止措置を怠り放置した結果として労働者がメンタル不調等を発症した場合には、不法行為責任や安全配慮義務違反(民法第415条・第709条)に基づく損害賠償責任を免れません4765150。
企業がまず優先して行うべき基本ステップ
企業がパワーハラスメント防止対策に着手するにあたっては、実務上、以下の4つのステップに沿って段階的に体制を整備することが推奨されています6852。
STEP 1:トップメッセージの提示と基本方針の策定
ハラスメント防止に向けた企業の姿勢を示すため、経営トップが自ら社内外に対して「ハラスメントを許容しない」という強いメッセージを提示することが第一歩となります2535。
事業主自らが優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に注意を払うよう努めることが法律上も事業主の責務として規定されています86。
企業としてのハラスメント防止方針を文書化し、役員から管理職、一般社員に至るまで全員に対してハラスメント防止の重要性を印象付けることが不可欠です2526。
STEP 2:就業規則等の社内規定の整備・改定
事業主は、パワハラを行ってはならない旨の方針や、パワハラを行った行為者に対して厳正に対処する旨の方針および対処内容を、就業規則等の文書に規定しなければなりません253142。
具体的には、就業規則本則の服務規律の項目にパワハラ禁止規定を設け、懲戒規定においてパワーハラスメントを行った場合の処分基準(懲戒解雇、出勤停止、減給、戒告等)を明確にします2531136。
また、就業規則の委任を受けて「ハラスメント防止規程」等の別規定を作成し、定義や相談窓口の手続き、調査手順などを細かく定めておくことが実務上一般的です136。
あわせて、ハラスメントの相談を行ったことや調査に協力したことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨も規定に明記する必要があります314275。
STEP 3:相談窓口の設置と運用体制の整備
パワハラの相談(苦情を含む)を受け付け、適切に対応するための相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知しなければなりません3142。
相談窓口は、人事労務部門の担当者や社外の専門機関(弁護士、社会保険労務士、外部コンサルティング会社等)を指定して設置します105112115。
相談窓口担当者が相談内容や状況に応じて適切かつ柔軟に対応できるよう、マニュアルの作成や担当者向けの研修を実施することが求められます3142。
パワハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合やハラスメントに該当するか微妙な事案であっても広く相談に応じる体制を整えることが指定されています3142。
STEP 4:社内への周知・啓発と階層別研修の実施
規定や窓口を整備するだけでは不十分であり、全労働者に対する周知・啓発活動を定期的かつ継続的に実施することが必要です2526。
社内報、パンフレット、社内Intranet(ポータルサイト)等への掲載・配布や、全社的な研修・講習会の開催を通じて周知を図ります26136。
研修を実施する際は、役員・管理職向けと一般社員向けで内容を分け、階層別に実施することが効果的であるとされています108109。
管理職向け研修では「正当な業務指導とパワハラとの違い」や「部下への適切な指導方法」を重視し、一般社員向け研修では「ハラスメントの定義」や「相談窓口の利用方法」を重点的に伝えます26108109。
厚生労働大臣指針に基づく「雇用管理上講ずべき10の措置」
厚生労働省の「パワハラ防止指針」では、事業主が講じなければならない具体的な雇用管理上の措置として、大きく4つの柱と10の項目を挙げています314252。
企業は自社の防止体制がこれら10の項目を漏れなく網羅しているかを点検・確認する必要があります3142。
1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- ① パワハラの内容・方針の明確化と周知:
職場におけるパワーハラスメントの内容およびパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること2542。 - ② 行為者に対する厳正な処分の規定・周知:
パワーハラスメントの行為者について、厳正に対処する旨の方針および対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること3142。
2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- ③ 相談窓口のあらかじめの設置・周知:
相談(苦情を含む)に応じるための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること3142。 - ④ 相談窓口担当者による適切な対応体制の確保:
相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。発生のおそれがある場合や微妙な案件も広く対象とすること3142。
3. 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- ⑤ 事実関係の迅速かつ正確な確認:
相談申出があった場合、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること3142。 - ⑥ 被害者に対する配慮措置の適正な実施:
事実確認ができた場合、被害者と行為者間の関係修復支援、配置転換、行為者の謝罪、労働条件の不利益回復など、速やかに被害者配慮措置を行うこと3142112。 - ⑦ 行為者に対する適正な措置の実施:
事実確認ができた場合、就業規則等に基づき行為者に対する必要な懲戒処分や配置転換等の措置を適正に行うこと3142112。 - ⑧ 再発防止に向けた措置の講空:
改めてハラスメント防止方針を周知・啓発する等の再発防止策を講ずること。なお、事実確認ができなかった場合においても同様の再発防止措置を講ずること313742。
4. 併せて講ずべき措置
- ⑨ プライバシー保護措置の実施と周知:
相談者や行為者等のプライバシー(性的指向・性自認や病歴等の機微な個人情報を含む)を保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること313542。 - ⑩ 不利益取扱いの禁止の規定・周知:
相談を行ったことや事実確認に協力したこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること314275。
パワハラ相談発生時の初期対応と実務フロー
実際に社内でハラスメントの相談や申告が寄せられた場合、企業が対応を怠ると不作為による安全配慮義務違反を問われる可能性があるため、迅速な初動対応が求められます112113146。
実務上は、以下の手順に沿って客観的かつ公平に調査・対応を進めます105112。
段階1:相談受付と被害者・相談者からのヒアリング
相談受付時には、プライバシーが確保された別室やオンライン環境を準備し、秘密が保持されることを伝えて相談者を安心させます115。
ヒアリングでは「5W1H」(いつ、どこで、誰が、誰に対して、どのような言動をしたか)を意識し、時系列に沿って詳細な事実経過を確認します112。
その際、相談者の心情に配慮しつつ、感情的な評価と客観的事実を区別して聴取し、ヒアリング記録を作成します42112115。
相談者の希望(行為者からの謝罪を求めるのか、配置転換を希望するのか、行為者への処分を求めるのか等)についても確認します112。
段階2:事実関係の精査および関係者へのヒアリング
相談者の了解を得た上で、行為者とされる人物や第三者(目撃者や同僚)からの聞き取り調査を実施します42112115。
主張が食い違う場合は、メールの送信履歴、チャットログ、業務日報、録音データ、日記や手控えメモなどの客観的な証拠資料を収集・確認します112。
行為者へ聴取を行う際にも、弁明の機会を正当に与え、一方的な断定を避けて公平に事情を聴取します42115。
段階3:ハラスメント該当性の判断と措置の決定
収集した事実に基づき、企業としてのハラスメント該当性を判断します112。
判断にあたっては、言動の目的、経緯、態様・頻度、被害者の属性や心身の状況などを総合的に考慮します120125131。
ハラスメントの事実が認められた場合、被害者に対しては配置転換や勤務環境の整備、行為者の謝罪等の配慮措置を行います3142112。
行為者に対しては、就業規則に基づき、行為の悪質性や反省の度合いに応じた客観的で相当な懲戒処分(戒告、減給、出勤停止等)や人事措置(配置転換等)を決定・執行します3142112。
段階4:再発防止策の実施と追跡フォロー
事案の処理が終了した後も、職場全体のハラスメント防止方針の再周知や研修の再実施など、再発防止策を徹底します3142。
事実確認が取れなかった場合であっても、職場の人間関係の不調やコミュニケーションの課題が存在することが多いため、職場環境の改善や再発防止に向けた啓発活動を行います313742。
また、事案の解決後も、相談者や被害者が社内で不利益な取扱いを受けていないか、復発が生じていないか等の追跡フォローを行うことが推奨されます3142115。
実務上の主要な論点と発展的課題
パワーハラスメント対策を実効的なものとするためには、単に制度を形造るだけでなく、現場で直面する実務上の論点や発展的な課題に対応していく必要があります68101。
業務上の適正な指導とパワハラとの境界線
現場の管理職が「パワハラと言われることを恐れて部下に適切な注意・指導ができない」という問題が生じるケースが多く見られます5101106。
しかし、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワーハラスメントには該当しません119122。
業務上のミスやルール違反に対して改善を促す指導を行うこと自体は、上司としての管理権限の範囲内であり、正当な行為です101104。
適正な指導と違法なパワハラを分ける境界線について、裁判例や実務では以下の要素が重視されています100120。
- 目的の正当性:
業務の改善や育成を目的としているか、単なる感情的な怒りや排除・いじめを目的としていないか100120。 - 態様の相当性:
人格を否定するような暴言(「馬鹿」「死ね」「給料泥棒」等)や、大声での威圧的な叱責、手足を出す暴行、見せしめのような叱責になっていないか26100128。 - 指導の継続性・執拗性:
必要以上に長時間(何時間も連続して)叱責を繰り返したり、過去の無関係なミスまで引き引き出して執拗に責め立てていないか26100128。
研修などを通じて、管理職に対して「正当な指導は堂々と行うべきであり、ただしその指導方法・態様において人格否定や暴言を避ける」という基準を明快に伝えることが重要です100101108。
他のハラスメントとの一元的相談体制の構築
厚生労働省の指針では、パワーハラスメントのみならず、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタニティハラスメント等)と一元的に相談に応じることができる体制を整備することが「望ましい取組」として推奨されています3638。
ハラスメントはパワハラとセクハラが複合して発生することもあるため、窓口を一本化し、どのハラスメントの相談であっても幅広く受け付けられる体制を整えることが実務上極めて有効です3638。
顧客等からの迷惑行為(カスタマーハラスメント)や他者への配慮
労働施策総合推進法の指針では、自社の労働者以外の者(求職者、フリーランス、他社の労働者等)に対するハラスメント言動への注意配慮や、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント/カスハラ)に対する労働者保護の取組を行うことが事業主の望ましい責務として定められています29130。
特にカスハラについては、顧客や取引先からの不当な要求や悪質な暴言・脅迫から自社の従業員を守るため、対応マニュアルの策定や相談体制の設置を進める企業が増加しています127130。
まとめ
企業が職場におけるパワーハラスメント防止のためにまず行うべきことは、単に相談窓口の名称を掲げることにとどまりません3142。
これら4つの柱を一体的に整備し、職場全体でハラスメントを許容しない風土を醸成していくことが、従業員の健康を守り、企業の安全配慮義務を果たした健全な労働環境を維持するための基本となります4765106。
AIの回答には誤りが含まれる場合があります。実際の文献もあわせてご確認ください。
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