LP020_2024年以降の憲法判断を含む最高裁の判断について解説
2026/09/21
2024年以降の最高裁による憲法判断の解説
2024年(令和6年)から本日までの約2年半、最高裁は多岐にわたる憲法問題に判断を下しています。以下では、違憲判断を含む主要な判決を中心に、テーマ別に整理して解説します。
1. 大法廷による違憲判断──旧優生保護法違憲判決
この期間で最も歴史的意義が大きいのは、最高裁大法廷令和6年7月3日判決(国家賠償請求事件)です34。旧優生保護法3条1項1号〜3号、10条、13条2項が、憲法13条および14条1項に違反すると判示されました34。
大法廷は、不妊手術は生殖能力の喪失という重大な結果をもたらす身体への侵襲であり、正当な理由なくこれを強制することは自己の身体に対する自由を侵害し憲法13条に反すると判断しました24。また、特定の障害等を理由に不妊手術の対象者と定めることは、合理的な根拠に基づかない差別的取扱いにあたり憲法14条1項に反するとしました24。
さらに実務上大きなインパクトを持つのは、除斥期間(改正前民法724条後段)に関する判断です34。最高裁は、除斥期間の経過により請求権が消滅したとすることが「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合」には、裁判所は除斥期間の主張を信義則違反または権利濫用として排斥できるとし、本件では国の除斥期間の主張を許されないと結論づけました2434。国が約48年間にわたり施策を推進し、約2万5000人が手術を受けた実態、平成8年の規定削除後も長期にわたり適法・補償不要の立場を維持してきた事情が重視されています34。
2. 大法廷による違憲判断──警備業法の被保佐人欠格事由
もう一つの違憲判断が、最高裁大法廷令和8年2月18日判決(地位確認等請求事件)です135。令和元年法律第37号による改正前の警備業法14条、3条1号のうち、被保佐人であることを警備員の欠格事由とする部分は、平成29年3月の時点で憲法22条1項および14条1項に違反するに至っていたと判断されました135。
大法廷は、精神上の障害を理由に職業選択の自由を制約し被保佐人を一律に区別する規定について、合憲性を肯定するためには規制が「重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置」であることを要するとしました1。制定当初は合理性があったものの、障害者権利条約の批准や関連法整備、社会意識の変化により、個別審査によらず一律排除する規定は立法府の合理的裁量を逸脱したと判断しています1。
もっとも、国家賠償請求は退けられました35。立法不作為が国家賠償法上違法となるには違憲性が「明白」等の厳格な要件が必要で、本件の違憲性は外形的に容易に看取しうるものではなく、また政府が多数の関連法の統一的見直しを進めていた事情もあったため、国会議員の職務上の義務違反は認められないとされています1。
3. 家族法における新たな判断──性別変更後の認知請求
最高裁第二小法廷令和6年6月21日判決(認知請求事件)は、性別変更により法的性別が女性となった者に対しても、生物学的にその者の精子で懐胎された嫡出でない子は認知を求めることができると判示しました23。
民法の実親子法制は血縁上の親子関係を基礎とし、生物学的な男性が自己の精子で子を懐胎させた事実は当該者の法的性別により変わるものではないとされました23。また、法的性別が女性であることを理由に認知が妨げられれば、子が扶養や相続の法的地位を取得できず、子の福祉および利益に反することが明らかであるとしました23。性同一性障害者特例法の要件も、既に存在する血縁上の父子関係に基づく認知請求を妨げる根拠にはならないと解釈されています23。
4. 平等原則が問われた合憲判断──性風俗事業者への給付金不支給
最高裁第一小法廷令和7年6月16日判決は、無店舗型性風俗特殊営業を行う事業者を持続化給付金・家賃支援給付金の対象外とする措置が憲法14条1項に違反しないとしました30。
本件各給付金は公費による政策的支援で、給付対象の範囲設定には国の広範な裁量が認められること、当該営業は風営法上「健全化を観念し得ない」届出制対象とされており現行法上の位置付けが合理性を欠くとはいえないこと、業務態様から従業者の尊厳を害するおそれが否定しがたいこと等から、公費支出してまで事業継続を支えることは相当でないとの判断は不合理とはいえないと結論されました30。ただし補足意見・反対意見が付されており30、給付制度の目的から業種による差別は許されないとする少数意見もあります30。
5. 政教分離原則──久米至聖廟事件
最高裁第一小法廷令和7年3月17日判決は、那覇市長が市管理の都市公園内に孔子等を祀る施設の設置を一般社団法人に許可し、市がその敷地を提供したことが憲法上の政教分離原則および憲法20条・89条に違反しないと判断しました27。施設が観光資源として位置付けられ体験学習施設・歴史的価値の高い施設として公園施設と整理されていたこと、法人が年間約576万円の公園使用料を納付していること、使用料免除処分は後に取り消され順次納付されていることなどが総合考慮されています27。
6. 経済的自由・財産権に関する合憲判断
最高裁第三小法廷令和6年12月17日判決は、組織的犯罪処罰法(令和4年改正前)10条の犯罪行為により生じた財産等を没収できるとする同法13条1項6号が、憲法29条に違反しないとしました28。
最高裁第三小法廷令和6年5月7日判決は、法人税法127条1項の青色申告承認取消処分について、事前に防御機会が与えられないことが憲法31条の法意に反しないと判断しました(補足意見・反対意見あり)29。
7. 表現の自由と選挙運動規制
最高裁第二小法廷令和6年3月8日判決は、選挙運動用文書図画の頒布方法等を制限する公職選挙法142条1項および罰則規定である243条1項3号について、憲法21条に違反しないとしました39。表現の自由に対する制約が問題となる典型場面ですが、従来の合憲判断の枠組みが維持されています。
8. 生存権と社会保障立法──憲法25条・14条
社会保障分野でも複数の合憲判断が示されています。
最高裁第三小法廷令和7年6月10日判決は、児童扶養手当法(令和2年改正前)13条の2第2項1号による障害基礎年金との併給調整規定が、憲法25条・14条1項に違反しないとしました40。
最高裁第三小法廷令和6年12月24日判決は、平成24年改正法および平成25年政令に基づく年金額減額改定処分について、生存権立法の裁量審査に関する上告人らの主張を退け、憲法25条・29条に違反しないとして上告を棄却しました41。同種の年金減額改定を争う多数の上告事件も、令和6年6月・9月・12月にかけて相次いで棄却されています16171819202122505152535455。
なお、憲法判断ではないものの実務上重要なのが、最高裁第三小法廷令和7年6月27日判決(生活保護基準引下げ処分取消等請求事件)です4449。物価変動率のみを直接の指標として基準生活費を一律に減じた改定は、生活保護法3条・8条2項に違反し違法とされました(ただし国家賠償法上の違法性は否定)4449。憲法25条の直接判断ではありませんが、生存権保障の趣旨に沿う裁量統制の姿勢が示されています。
9. 投票価値の平等──選挙区割訴訟
最高裁第二小法廷令和7年9月26日判決は、令和6年10月27日執行の衆議院議員総選挙時点における公職選挙法13条1項・別表第1の小選挙区区割りが、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえず、憲法14条1項等に違反しないとしました263132。比例代表選出議員に関する13条2項・別表第2、86条の2、95条の2の規定も同様に合憲と判断されています37。
地方議会レベルでは、最高裁第三小法廷令和7年1月28日判決が、令和5年4月の千葉県議会議員一般選挙時における千葉県条例の議員定数配分規定について、公職選挙法15条8項および憲法14条1項に違反していたとはいえないと判示しました(補足意見・反対意見あり)42。
総括
以上のとおり、2024年以降の最高裁は、大法廷において旧優生保護法と警備業法の被保佐人欠格事由という2件の違憲判断を示す一方13435、小法廷では給付金不支給、政教分離、社会保障、選挙区割り、刑事・行政手続など幅広い分野で合憲判断を積み重ねています2627282930394041。特に大法廷判決においては、憲法違反という結論を導くための立法事実の変遷への着目(警備業法)や、除斥期間の権利濫用適用による救済(旧優生保護法)など、権利救済に向けた実質的な判断手法が採用されている点が注目されます124。他方で、立法不作為に基づく国家賠償や、社会保障立法の裁量統制については、依然として司法審査の閾値が高く維持されている傾向も見て取れます141。
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