LB024_企業がどのように法律相談先を確保しているか教えて
2026/10/02
企業はどうやって「相談できる弁護士」を確保しているのか
「困ったら顧問弁護士に電話する」——ひと昔前ならそれで済んだ企業の法律相談ですが、今の実務はもう少し複雑です。事業の多角化、グローバル化、そしてリーガルテックの登場によって、企業と法律事務所の付き合い方は大きく変わりつつあります。今回は、Business Lawyersに掲載された各社・各事務所のインタビューをもとに、企業が実際にどんなふうに法律相談先を確保しているのかを整理してみます。
かつての「お抱え弁護士」から「複数事務所の使い分け」へ
かつては、企業には決まった「お抱えの法律事務所」があり、何か起きればそこに相談を持ち込むのが一般的でした52。法律事務所側も、相談が持ち込まれてから動くという受け身の姿勢が普通だったといわれています52。
ところが最近は、1つの企業が複数の法律事務所を使い分けるのがむしろ標準になってきています52。専門特化した「ブティック系」と呼ばれる事務所が増え、企業側は品質や価格を見比べて依頼先を選ぶようになりました13。「一社からしか物を買わない」ことがないのと同じで、法律事務所も案件ごとに選ぶ時代になったわけです13。
隼あすか法律事務所の弁護士も、「M&A関連だけ依頼したい」といった、得意分野に絞った依頼が増えていると述べています13。従来型の顧問関係を維持しながら、特定分野は別の事務所に頼む、という併存モデルが広がっているのです。
大企業の実態——「事務所」ではなく「人」で選ぶ
三井物産の法務部は、この「使い分け」を極めて組織的にやっています。海外案件でも「米国ならこの事務所」と決め打ちせず、「この案件の契約書ならこの人に頼もう」と、個人単位で起用先を決めているそうです46。過去に起用した弁護士が事務所を移った場合、事務所ではなくその弁護士個人に依頼することも珍しくない、というのが印象的です46。
同社では、起用した弁護士を英語のデータベースに登録し、専門分野・所属事務所・アワリーレート・案件・パフォーマンス評価まで蓄積しており、その数は約700名にのぼるといいます46。相手方が起用していた弁護士の対応が良ければ、次の案件で自社からコンタクトすることもあるそうです46。
田辺三菱製薬でも、有事に備えて普段から弁護士とコミュニケーションをとり、実力と相性の両面から「頼れる担当者」をキープするようにしていると語られています1735。海外出張の折に周辺の事務所を訪問して関係を築く、といった地道な取り組みも紹介されています17。国内案件は顧問弁護士が中心ですが、費用感を考えて別事務所に依頼することもあり、「トップクラスの事務所」と「小回りの利く事務所」を案件ごとに使い分けているとのことです17。
キヤノンでは、M&Aや会社法・証券法関連は大手事務所を起用し、事業影響の大きい案件はオピニオン取得のために個別に相談する運用にしています49。海外案件については、地域統括販売会社の法務部門から現地事務所の得意分野や報酬感の情報を集め、原則として国内事務所を経由せず直接依頼する、というグローバル運用も行われています49。
中堅・スタートアップの現実——探し方から悩む
一方、中堅・中小・スタートアップの現場はもっと手探りです。若手法務部員の座談会では、「案件ごとに事務所を使い分けている」「事業の専門性を持つ企業法務系事務所出身の弁護士に頼むことが多い」といった声の一方で、「どうやって弁護士を探しているのか」という率直な疑問も出ています425。インターネットで調べても、ニッチな分野では見つけにくく、結局は個人開業の先生に依頼することが多い、という実感も語られています4。
創業期のスタートアップも似た悩みを抱えています。倉庫マッチングサービスのsouco代表は、創業当初は弁護士の選び方がまったくわからず、レスポンスの速さを頼りに選んだところ、フォーマット化された返答が多くて苦労した、と振り返っています26。bitFlyerの加納氏は、依頼内容を「ドキュメント作成」「既存法令へのアドバイス」「立法を目指すロビーイング」の3つに分け、それぞれ得意な弁護士を使い分けていると語ります61。特に立法まで見据えられる弁護士は各業界に数人しかいない、というのがリアルな肌感覚のようです61。
こうした「探し方がわからない」層向けに、公的な窓口も整備されています。日弁連が運用する「ひまわりホットダイヤル」は、中小企業や個人事業主が電話すると最寄りの弁護士会に繋がり、原則として初回30分は面談無料で相談できる仕組みです2067。知財分野に特化した「弁護士知財ネット」というネットワークもあり、地域から窓口を探せる形になっています2067。Startup Hub Tokyoのような創業支援施設でも、専門家無料相談DAYが定期開催されていると紹介されています2067。
「一人法務」なら、事務所選びの視点も変わる
法務担当が自分一人しかいない、いわゆる「一人法務」の場合、事務所選びの基準も少し違ってきます。法律知識だけなら弁護士は皆持っていますが、企業の現場で培われる「法務ノウハウ」には弁護士によって相当の差があるとされ、インハウス経験のある弁護士は一人法務のサポート役として適任だと指摘されています33。「事業に貢献できる法務」になるために足りない部分を補ってくれる相手を選ぶ、という視点です33。
面白いのは、社内で答えが出ている案件でも弁護士に相談するというケースです。「法務でわかっていることでも、社内の説得材料がほしいときに弁護士に聞く」「ビジネスを止めたいときも進めたいときも意見を聞く」といった使い方が挙げられています425。弁護士の意見は、社内調整の“梃子”としても機能するわけです。
内部通報窓口という別ルート
法律相談先の話とは少し角度が違いますが、内部通報の外部窓口をどの弁護士に頼むかも重要な論点です。顧問弁護士に窓口業務を委託すると、「通報内容が会社に筒抜けになるのでは」と従業員が不安に感じ、通報を躊躇するおそれが指摘されています622。そのため、顧問弁護士以外の、コンプライアンスに詳しい別の弁護士に外部窓口を委ねることが有効な方策として推奨されています11。「メイン顧問」とは別ルートの弁護士関係を持っておく、という発想です。
選ばれる弁護士像——変化するニーズ
企業側が弁護士に求めるものも変わってきました。隼あすか法律事務所は、月額定額で契約書チェックを行う「契約書アウトソーシング」サービスを提供しており、企業内部でできる業務まで弁護士が外注先となる時代が来ていると分析しています13。ウォンテッドリーのように、顧問弁護士とGitHub上で契約書のやりとりをする例もあり、来社を前提としない関係が当たり前になりつつあります1027。
三村小松山縣法律事務所の弁護士は、大手事務所ではベンチャーの立ち上げに寄り添う余裕がなく、既存クライアントとの利益相反の問題も出やすいと率直に語っています47。裏を返せば、尖ったビジネスをやりたい企業ほど、あえて小規模でスピード感のある事務所を選ぶ合理性があるということです47。
「複数事務所」戦略には副次効果もある
複数の事務所と関係を持っておくことには、リスク分散という意味もあります。特定の事務所に案件を集中させると、その事務所が別件で利益相反になったときに一気に相談先を失いかねません。企業が広く複数事務所に依頼することで、利益相反による依頼拒否リスクを分散でき、結果として法律事務所業界の寡占解消にもつながる、という指摘があります51。
災害時対応の観点からも、平常時からの弁護士との信頼関係構築の重要性が説かれています。事業の中断による契約の債務不履行や、従業員・顧客の負傷など、災害時には法律問題が集中して発生するため、災害対応をしっかり検討している弁護士を顧問にしておくことは大きな安心材料になります724。
まとめ
こうして見てくると、企業の法律相談先の確保は、「顧問弁護士との一本足打法」から「複数事務所+内部窓口+公的窓口の組み合わせ」という多層構造へと進化していることがわかります。大企業は個人単位のデータベースで最適配置を追求し46、中堅・スタートアップは公的窓口や気軽に相談できる相手を見つけるところから始め206167、内部通報のような特殊領域は別ルートを確保する1122。そしてどの規模の企業でも共通するのが、「平常時から信頼関係を築いておく」ことの重要性です717。有事になってから探しても間に合わない、という点だけは、大企業もスタートアップも変わらないようです。
AIの回答には誤りが含まれる場合があります。実際の文献もあわせてご確認ください。
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