LB009_偽装請負
2026/08/21
「その業務委託、大丈夫?」──偽装請負の類型を、わかりやすく整理してみた
外注や業務委託を使っているどんな会社にも、実は静かに忍び寄っているリスクがあります。「偽装請負」です。契約書のタイトルには堂々と「業務委託契約書」「請負契約書」と書かれているのに、現場に一歩踏み込んでみたら、実態はまるで派遣──というやつですね。
この記事では、そんな偽装請負が具体的にどんな顔をして現れるのか、代表的な4つの類型を軸にしながら、判断基準や近時の裁判例のリスクまで、ブログ風にざっくりまとめてみたいと思います。
そもそも偽装請負って何?
まずは定義の確認から。偽装請負とは、形式上は業務委託契約が締結されていても、発注者が外注先従業員に対して指揮命令をしていて、実態が「労働者派遣」に該当してしまっているケースをいいます8。労働者派遣法上、「労働者派遣」は「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義されています(労働者派遣法2条1号)8。
本来なら派遣法上のさまざまな規制を守らなければならないのに、「業務委託」「請負」の名を借りて偽装し、規制を免れているから「偽装請負」と呼ばれるわけです8。
ここでのポイントは、契約書のタイトルや名称ではなく、実態に応じて判断されるという点1。「うちは請負契約を結んでるから大丈夫」は通用しません。契約書に「業務請負契約書」と書かれていても、実際の運用が労働者派遣と同じであれば、それは違法な偽装請負として扱われることになります1。
なお、労働者派遣に該当しない類型で、雇用関係もなく他人の指揮命令下で労働させるものは「労働者供給」となり、こちらは職業安定法44条で原則禁止されています367。労働者供給の定義は職業安定法4条7号にあります66。
偽装請負の代表的な4つのパターン
厚生労働省や東京労働局の整理をベースにすると、偽装請負は概ね4つの類型に分けて理解されています5152。ひとつずつ見ていきましょう。
① 代表型(典型パターン)
もっともオーソドックスな偽装請負がこれです。請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行うパターン52。
たとえば工場のラインで、発注者側の社員が請負会社の作業員に「次はこれをやって」「今日は残業して」と直接声をかけているようなケース。SESの現場で、ユーザー企業のリーダーがベンダーのSEに直接タスクを割り振り、勤怠まで把握している──これも典型です16。
判断基準として、37号告示の疑義応答集は、発注者が請負業務の作業工程に関して仕事の順序・方法等の指示を行ったり、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定することは偽装請負にあたると明言しています28。しかもこの指示は口頭に限らず、発注者が作業の内容・順序・方法を文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合も、指示・管理を行わせていると判断されるので要注意です28。
② 形式だけ責任者型(単純業務型パターン)
これは少し巧妙で、現場には形式的に責任者を置いているが、その責任者は発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、実態は発注者が指示をしているのと同じパターン52。
「うちはちゃんと請負事業主の現場責任者を置いていますよ」と外形は整えているものの、その責任者が発注者の伝書鳩になっているだけ、というやつですね。責任者が単に指示を右から左に流しているだけでは、請負事業主が自ら業務遂行の指示・管理を行っているとは評価されず、偽装請負と判断されるリスクが高くなります27。
③ 使用者不明型(多重請負型)
ここから少しややこしくなります。業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bはさらに別の業者Cに丸投げ。Cに雇用されている労働者がAの現場で、AやBの指示で働いてしまうという多層構造のパターン52。
建設業界の重層下請構造で特に問題になりがちなタイプで、労働者から見て「そもそも自分は誰の指揮命令下にあるのか」がよくわからないという状態が起きます。建設業務は労働者派遣法によって派遣自体が禁止されているため、こういう構造での偽装請負はダブルで違法性を帯びます6244。
④ 一人請負型
最後は個人事業主を絡めたパターン。実態としては業者Aから業者Bに労働者を斡旋するのに、BはA労働者と労働契約を結ばず、個人事業主として請負契約を結び、業務の指示・命令をして働かせる、というものです51。
雇用ではなく「業務委託」として個人事業主扱いにしてしまえば労働法の各種規制から逃げられる、というスキームですが、実質が指揮命令下の労働であれば、これも労働者供給・偽装請負の問題として捕捉されうる領域です40。近年のフリーランス保護の議論とも接続する、非常にホットな類型ですね。
じゃあ「適法な請負」と「偽装請負」の分かれ目はどこ?──37号告示の2要件
ここまで見た4類型を横断する判断基準として、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号、いわゆる37号告示)が実務のスタンダードです318。
37号告示は、次の2つの要件をすべて満たさない限り、形式が請負でも実態は労働者派遣(=偽装請負)とすると定めています18。
- 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること
- 請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること
要件1は、要するに「請負事業主が自分の従業員をちゃんと自分で使えているか」ということ。具体的には、業務遂行に関する指示・管理、労働時間等に関する指示・管理、企業秩序維持のための指示・管理を、すべて請負事業主が自ら行っている必要があります20。業務遂行、勤怠管理、職場管理という3面での「指揮命令」がどちらにあるかを問う6つの細分化された基準が用意されています60。
要件2は、「その業務を自分の業務として独立して回せているか」ということ。業務処理に要する資金を自ら調達・支弁している、民法等の事業主としての責任を負っている、自己の責任・負担で資材や機械を準備している、あるいは専門的な技術・経験に基づいて業務処理をしているといった「単なる肉体的な労働力の提供ではない」ことが求められます20。
そして、告示上は列挙された基準の1つでも満たさなければ偽装請負と判断されるという相当厳しい建て付けになっており39、37号告示は発注者にとって「非常に高いハードル」というのが実務家の共通認識のようです39。
グレーゾーンあるある──疑義応答集が教えてくれる境界線
「じゃあ発注者は請負労働者と一切話しちゃダメなの?」と思うかもしれませんが、そこまで極端ではありません。厚労省の疑義応答集では、次のようにグレーゾーンの整理が示されています。
- 業務に関係のない日常会話は指揮命令ではないので、それだけで偽装請負にはならない21。
- クレーム対応として、発注者が請負事業主に対して作業工程の見直しや欠陥商品の再製作を要求することは、契約当事者間のやり取りであって偽装請負にはあたらない。ただし、発注者が直接、請負労働者に工程変更や再製作を指示すると偽装請負になる23。
- 作業スペースの混在それ自体は必ずしも偽装請負ではないが、混在の結果として発注者が請負労働者に直接指示せざるを得なくなっているなら偽装請負と判断される25。
- 作業服の指示は、原則として発注者が直接行うと偽装請負となる。ただし機密保護・安全衛生等の合理的理由により、あらかじめ契約で合意されている場合はセーフ26。
- 技術指導は、新設備の操作方法説明など限定された場面で、請負事業主の監督下で行うのであれば直ちに偽装請負とはならない34。
近年注目されているのがアジャイル開発の場面で、疑義応答集第3集では、発注者側と受注者側が対等な関係で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発を進めている限りにおいては、詳細な情報提供や技術的な議論・助言・提案があっても偽装請負にはあたらないと整理されています33。逆に、実態として業務遂行方法や労働時間の指示にわたっていれば偽装請負になる、というラインも同時に引かれています33。
罰則と「労働契約申込みみなし制度」の破壊力
偽装請負の何が怖いって、罰則だけじゃないんですよね。
まず罰則面では、派遣事業の許可を得ずに労働者派遣を行っていた場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が課されうる(労働者派遣法59条2号)11。派遣事業の許可を得ていたとしても、労働者派遣契約の締結義務等を履行していないため、厚生労働大臣の指導・助言、改善措置命令、是正措置勧告(従わない場合には企業名公表)といった行政監督の対象になります11。労働者供給に該当する場合には、職業安定法64条9号により1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象です11。
ただ、実務でより深刻なのは労働契約申込みみなし制度(労働者派遣法40条の6)です68。この規定は2015年10月1日に施行されました5。
同条1項5号は、労働者派遣法等の適用を免れる目的で請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、労働者派遣の役務の提供を受けた場合、その時点における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みを発注者がしたものとみなすと規定しています68。そして、偽装請負が終了した日から1年を経過する日までに外注先従業員が承諾すれば、発注者と外注先従業員との間で直接の雇用関係が成立します568。
ここで最大の争点となるのが、発注者の主観面である「偽装請負等の目的」の要件5。
- 東リ事件控訴審(大阪高裁令和3年11月4日判決)は、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、組織的に偽装請負等の目的で役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である、と判示しました5。
- 日本貨物検数協会事件控訴審(名古屋高裁令和3年10月12日判決)は「適用潜脱目的」という用語を用い、偽装請負に関する客観的事実の認識があり、それにもかかわらず適用潜脱目的ではないことをうかがわせる事情が一切存在しない場合にも、目的の存在を推認できると判示しています7。
- 一方、ハンプティ商会ほか1社事件(東京地裁)は上記のような一定の推認条件には言及せず、種々の事情を検討したうえで、法人代表者等の認識を基準に偽装請負等の目的の存在を否定しました7。
判断はまだ完全には固まっていないものの、目的の存在を肯定する高裁判決が複数出ているというのは実務上かなり重い7。「うっかり偽装請負」で気がついたら発注者が外注先従業員を直接雇用する羽目になる、というリスクが現実味を帯びているわけです。
なお、偽装請負を認定するアプローチも裁判例によって分かれており、37号告示を参照して判断するもの(東リ事件など)と、37号告示を参照せずに労働者派遣法2条1号の定義から端的に判断するもの(日本貨物検数協会事件など)があります19。とはいえ、いずれの裁判例でも「発注者が外注先従業員に対し外注業務の遂行に関して指揮命令していたか否か」が重視されている、という点は共通です19。
現場で何を気にすればいいか──チェックのポイント
最後に、実務上のセルフチェック視点を整理しておきます。SES契約を例にしたBL記事のチェックリストでは、次の各事項の主体が「ユーザ(発注者)」に寄っている場合は偽装請負リスクが高いとされています14。
- 作業員数の決定、配置および変更を誰が実施しているか
- 業務方法に関する技術指導・教育等を誰が実施しているか
- 作業工程の作成・調整・対応方針等の決定・指示を誰が行っているか
- 労働者の能力評価を誰が行っているか
- 労働時間管理を誰が行っているか
- 業務処理に必要な機材等の供給を誰から受けているか
これらが軒並み発注者側になっていたら、契約書のタイトルが何であれ、実態は労働者派遣です14。
そして、労働局から偽装請負の指摘を受けなかったとしても、裁判所によって判断が覆される可能性がある点は要注意12。実際、東リ事件では兵庫労働局は労働者派遣法違反の事実は確認できなかったと判断していたにもかかわらず、控訴審では偽装請負が認定されているという事例があります12。
すでに偽装請負状態が疑われる場合、業務委託契約を労働者派遣契約に切り替える対応が考えられますが、東リ事件控訴審では切り替え前後で同じ態様で業務が遂行されていた点が偽装請負等を認定する一事情とされており、単純な「看板の掛け替え」では逃げ切れないことも示されています15。
まとめ──「契約書より現場」を忘れずに
偽装請負は、①代表型、②形式だけ責任者型、③使用者不明型、④一人請負型という4つの類型で語られることが多く5152、それらを見分けるモノサシが37号告示の2要件18、そしてそこに刑事罰・行政指導・労働契約申込みみなしという三段構えのリスクが乗ってくる──というのが全体像です。
「契約書に何と書いてあるか」ではなく「現場で誰が誰に指示しているか」。これが偽装請負の世界のすべてを支配しているキーワードです1。
外注・業務委託を使っている会社の法務担当者にとっては、契約書のレビュー以上に、現場のオペレーション実態をヒアリングして37号告示のモノサシを当てにいく作業のほうが、はるかに重要だったりします。ぜひ一度、自社の外注現場を「発注者と請負労働者との会話」の解像度で点検してみてください。
主な参考資料
- 労働者派遣法40条の6、職業安定法4条・44条666768
- 37号告示および同疑義応答集(第1集〜第3集)21〜35
- BL記事「偽装請負の不正類型パターンと関連規制・罰則等のポイント」52、「近時の裁判例を踏まえた、偽装請負の判断基準と労働契約申込みみなし制度による直接雇用リスク」5715、「システムエンジニア(SE)の偽装請負に関する判断基準とリスク」1114
- 東リ事件(大阪高裁令和3年11月4日判決)、日本貨物検数協会事件(名古屋高裁令和3年10月12日判決)、ハンプティ商会ほか1社事件(東京地裁)57
AIの回答には誤りが含まれる場合があります。実際の文献もあわせてご確認ください。
----------------------------------------------------------------------
オンライン法律事務所タマ
東京都東大和市上北台3-429-24 サンライズビル305
電話番号 : 080-7026-2558
弁護士による非対面の法律相談
弁護士として労働問題に対応
弁護士による企業法務の相談
弁護士との顧問契約で築く信頼
----------------------------------------------------------------------