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退職勧奨の違法性判断基準とは

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LB006_退職勧奨関係

LB006_退職勧奨関係

2026/08/14

退職勧奨・希望退職の募集の適正な手順

1. 退職勧奨と希望退職の位置づけ

退職勧奨とは、労働者に対して労働契約の合意解約や自発的な辞職を促す使用者側の働きかけ・説諭を指し、労働者の自発的な意思表示を促すものにすぎないため、原則として自由に行うことができます5375。会社が個別の従業員を対象に個別協議で退職を促す点で、条件を提示し広く応募を募る「希望退職制度」とは区別されます57

もっとも、退職勧奨は労働者側の同意がなければ退職の効果が生じない点で、使用者の一方的意思で雇用関係を終了させる「解雇」とは根本的に異なります59。解雇は労働契約法16条により厳格に有効性が判断されるため、実務上は解雇リスクを避ける手段として、退職金加算などを条件に退職合意を目指す方法が広く行われています4264。ただし、退職勧奨は「解雇」ではないため、人員整理目的であっても整理解雇の4要件を満たす必要はないとされます(ダイフク事件・大阪地裁平成1298日判決)53

なお、希望退職募集は、日本の労使関係が生み出した合理的な雇用調整手段として評価でき、割増退職金の支給が一般的で、会社都合退職として雇用保険の受給も可能となります1。雇用保険制度上も、企業整備における人員整理等に伴う退職勧奨、および人員整理を目的とし措置導入時期が離職前1年以内で募集期間が3か月以内である希望退職募集は、いずれも特定受給資格者の判定基準に位置づけられています94

2. 退職勧奨の適法性の判断基準(違法となる境界線)

裁判例上、退職勧奨の適法性は、退職勧奨の回数および期間が説明・交渉に通常必要な限度に止められているか、対象者の名誉感情を害さない配慮がなされているか、使用者側の参加人数、優遇措置の有無等を総合考慮して、対象者の自由な意思決定が妨げられる状況にあったかにより判断されます(下関商業高校事件・最高裁昭和55710日判決、広島高裁昭和52124日判決原審、山口地裁下関支部昭和49928日判決第一審4621318287

下関商業高校事件の最高裁判決では、退職勧奨に応じない意思を表明し優遇措置も打ち切られている職員に対し、「退職するまで勧奨を続ける」と繰り返し述べ、短期間に多数回・長時間にわたって執拗に退職を勧奨した行為が違法とされました2182。具体的には、2か月間に11回、短いときで約20分、長いときで約2時間15分に及ぶ勧奨が不法行為とされています5375。また、嫌がらせ目的の退職勧奨についても不法行為の成立が認められています(エール・フランス事件・東京高裁平成8327日判決)5375

近時では、約4年半にわたる自宅待機命令が実質的に退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものとして、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨と評価された事例(東京地裁令和6424日判決)もあり、面談のみならず職場の処遇全体が退職勧奨と評価される可能性がある点にも注意が必要です2986

さらに、社会通念上相当と認められる限度を超えて対象従業員に不当な心理的圧力を加えたり、名誉感情を不当に害する言辞を用いたりして自由な退職意思の形成を妨げる行為ないし言動を伴う場合には、退職勧奨者および会社が不法行為責任を負う可能性があります(日本アイ・ビー・エム事件・東京地裁平成231228日判決)4365

3. 面談実施における具体的な手順・注意点

面談環境の設定

威圧感・圧迫感を与えないよう、使用者側の出席者は12名程度にとどめ、広めの会議室等を使用し、1回の面談時間は1時間程度以内に抑えることが望ましいとされています61。従業員から親族等の同席を求められた場合には、これを認めることも、手続的に万全を尽くす方策として挙げられています50

話し方と対応

穏やかな口調・言葉遣いに努め、労働者の発言を遮らず、自由に発言させて逐一応対することが重要です61。名誉感情を害する発言は避けなければなりません50

「解雇」と受け取られる発言の禁止

「退職勧奨に応じない場合には解雇する予定である」といった発言は絶対に避けるべきです44。使用者が解雇の意思を有していることを窺わせる言動を取らないこと、返答の期限を設けないこと、「応じない場合どうなるのか」と問われた際に「引き続き現在の部署で働いてもらい、あなたに適性のある業務を検討する」と答え、解雇を検討している印象を与える回答は避けるべきとされます44。「退職しなければ解雇する」との発言がなされ、労働者が畏怖して退職届を提出した場合、強迫による取消しが認められる余地があります(大阪地裁昭和611017日判決、民法961項)44

錯誤取消しリスクへの対応

使用者が有効に解雇し得る状況にないのに「退職しなければ解雇する」と伝えて退職に至らせた場合、錯誤による無効・取消しが認められ得ます(富士ゼロックス事件・東京地裁平成23330日判決、昭和電線電纜事件・横浜地裁平成16528日判決)52。この場合、実質的に解雇の有効性を争うのと同様の事態となり、退職勧奨のメリットは失われます52。誤解を与えない発言と、そうした誤解を与える状況ではなかったことの証拠確保が重要です52

拒否の意思表示後の対応

労働者が退職勧奨を明確に拒んだ後は、さらに勧奨を繰り返さないことが求められます50。多数回・長期間にわたる繰り返しは不法行為となり得ます5057

記録・エビデンスの確保

説明内容を記載した書面を用意し、労働者から内容を理解した旨の署名・押印を得ること、面談の一部始終を録音すること、面談後の労働者の行動を観察・メモとして記録することが有用とされています4461。労働者が退職勧奨を受けて畏怖しているならば通常取らない行動を取っていることについての証拠は、事後の訴訟で「畏怖していた」との主張を覆す根拠となり得ます61

退職合意後の書面化

退職合意が成立した場合には、退職合意書を作成し、または退職願および退職承諾書を交付するなどして、退職への同意を書面に残しておくべきです58

4. 特別な配慮を要する場合

妊娠・性別との関係

妊娠を直接の理由とする退職勧奨は、男女雇用機会均等法64号が禁じる差別的取扱いに該当し違法です4163。妊娠を原因としない能力不足等の性別と無関係な事由による退職勧奨自体は可能ですが、妊娠中の労働者では「社会通念上相当」と認められる範囲が通常より狭く解釈される可能性があります5172。近時の裁判例では、雇用機会均等法1条・2条・93項の趣旨に照らし、妊娠中の退職合意の効力については労働者の自由な意思に基づく同意と認めるに足りる合理的理由が客観的に必要とする傾向がみられます51。実務上は、退職以外の選択肢(配転・降格等)を提示し複数の選択肢から選ばせること、面談での即断を迫らないこと、労基法653項の軽易業務への転換請求権等の正当な権利行使を制約しないことなどが求められます58

なお、公立学校女性教員に対して男性と差別した退職勧奨年齢基準を設定し勧奨拒否者に優遇措置を不適用とした行為は、男女差別による一連の不法行為と認められた事例があります(鳥取地裁昭和61124日判決)2776

ハラスメント内部通報との交錯

退職勧奨対象者からハラスメントの内部通報がなされた場合、通報者が退職勧奨対象者であっても、会社は事実関係の調査等の必要な対応義務を負います(労働施策総合推進法30条の21項)4247。内部通報の内容が退職勧奨の理由に対する反論となっている場合には、原則として退職勧奨を一旦ストップし、事実関係の調査を経て、通報内容が否定された場合、または通報が事実であっても勧奨を進める正当理由があると判断できる場合に限って再開すべきとされています4248。この場合、内部通報対応の担当者は退職勧奨担当者とは別の者とすることが望ましいとされます48。なお、内部通報を理由とする解雇は法律上認められていません(労働施策総合推進法30条の22項、公益通報者保護法3条等)49

労働組合員に対する勧奨

組合員に対する退職勧奨が労働組合の運営を支配し介入する目的で行われた場合には、労働組合法73号の不当労働行為に該当し得ます(高松高裁平成71222日判決)2379

パワーハラスメントとの関係

厚生労働省の指針(労働施策総合推進法に基づく事業主が講ずべき措置等指針)は、パワーハラスメントが被害者・行為者双方の退職に至る損失を招く重大な問題であり、事業主に相談体制整備等の雇用管理上の措置を義務づけています9893。退職勧奨過程での言動がパワーハラスメントと評価されないよう留意が必要です。

5. 希望退職募集の適正な手順

制度設計の要素

希望退職制度は、優遇された退職金等の条件を提示して退職希望者を募る仕組みで、数か月から1年程度の給与分の退職金上乗せなどが実務上多く見られます4。整理解雇に先立つ解雇回避努力の一環として活用されることも多く、判例上、労働者の意思を尊重しつつ人員整理を図る有用な手段と評価されています(あさひ保育園事件・最高裁昭和581027日判決)3

会社の承認権

会社にとって重要な人材の流出を防ぐため、労働者からの退職の申出に対する最終承認は会社の承認を要する旨の条件付けが重要です4。裁判例上、希望退職の募集は労働契約合意解約の「申込みの誘引」であって申込みではないとされ、募集条件優遇措置の適用に会社の承認を要する条項(いわゆる逆肩叩き条項)についても、優秀な人材流出回避の目的があれば公序良俗に反しないと解されています(ソニー事件・東京地裁平成1449日判決、日本オラクル事件・東京高裁平成16317日判決)26。競業会社への転職者について優遇制度適用除外とすることも適法とされた事例があります(富士通事件・東京地裁平成17103日判決)14

もっとも、承認権の裁量は選択定年制の趣旨目的に沿った合理的なものである必要があり、不合理な裁量権行使は権利濫用や信義則違反となり得ます6。神奈川信用農業協同組合事件(最高裁平成19118日判決)では、事業譲渡前の退職者増加による事業継続困難を防ぐという理由による不承認は不合理でないとされました6

条件設定の合理性

条件設定は会社の任意ですが、労働者が決意するに足りる合理的水準の条件を提示する必要があります4。また、希望退職の結果次第で整理解雇も予定する場合、特定の部門・労働者のみを対象とするなど公平性を欠く条件は、後の整理解雇の有効性を否定する事情となり得ます4。他方、退職加算金は勧奨応諾の対価であり、勧奨の度合いによって支給額が時期や部署で変わっても平等原則違反にはならないとする裁判例もあり、一律・平等適用義務は否定されています10。なお、退職届提出時点で優遇措置の計画がない場合、後日公表された優遇措置を過去の退職者に遡及適用する義務はないとされています(日本板硝子事件・東京地裁平成21824日判決)14

大人数の退職勧奨における3つのポイント

向井蘭弁護士の記事では、大人数の退職勧奨のポイントとして「情報・時間・金銭」の3点が挙げられています541。募集要項を文書で掲示・説明することで十分な「情報」を提供でき、一定の募集期間を設けることで「時間」をかけて考えさせることができ、割増退職金による「金銭」的な対価を提示することでスムーズな合意が得られやすくなります1。仮に退職合意書に署名を得た場合であっても、労働者の自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するかという観点から効力の有無が判断されるため(山梨県民信用組合事件・最高裁平成28219日判決参照)、丁寧な手続が求められます54

再雇用の約束

退職勧奨時に「環境が良くなったら再雇用する」と約束することについては、雇用保険の基本手当は再就職活動意思のない者には支給されないため、再雇用を前提とすると失業手当が支給されない可能性があり、安易な約束は避けるべきとされています760

6. 合意退職の効力を否認されないためのまとめ

退職勧奨の主要リスクは、合意退職の無効・取消し(錯誤・強迫)と不法行為による損害賠償請求の2つです73。以下の対応が推奨されます。

  • 錯誤対応:解雇するとの誤解を与える発言をせず、そうした状況になかったことの証拠を残す52
  • 強迫対応:畏怖する心理状態を作らないよう、面談環境・人数・時間・言葉遣いに配慮し、面談後の記録も残す61
  • 不法行為対応:回数・期間を限度に止め、拒否表明後は繰り返さず、名誉感情を害する発言を避け、自由な意思決定が担保される状況を確保する50
  • 手続の最終段階:退職合意書等により退職合意の書面化を確実に行う58

補足

本回答は、Business Lawyers記事に紹介された裁判例・実務論、および厚生労働省の指針・要領に基づいてまとめています。個別事案の適用にあたっては、対象者の属性(妊娠中・組合員・内部通報者等)、勧奨の背景(能力不足・組織再編・業績不振等)、社内制度(就業規則・退職金規程等)により対応が異なるため、事案ごとに慎重な検討が必要です。また、退職勧奨の一環として提示する優遇措置(割増退職金・特別退職金・年休買上げ・退職日までの猶予期間など)は不利益緩和措置として有効に働くとされる一方58、その適用範囲・除外条件の設計は個別事情に応じて検討が必要です。

AIの回答には誤りが含まれる場合があります。実際の文献もあわせてご確認ください。

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