LB016_フリーランス保護法で影響を受ける業界
2026/09/11
フリーランス保護法で影響を受ける業界はどこ?──「うちは関係ない」が通用しない理由
2024年11月1日、いわゆるフリーランス保護法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました7。取引条件の明示、報酬の60日以内支払、買いたたきや報酬減額の禁止、ハラスメント対策、契約解除の30日前予告などを発注者に義務付けるもので、その適用範囲の広さから「うちには関係ない」で済ませられない企業が続出しています710。
今回は、どの業界がこの法律の直撃を受けているのかを、公正取引委員会(公取委)の指導実績や実態調査データも交えて眺めていきます。
そもそも「業種の縛りがない」というのが最大のポイント
いきなり結論めいた話から始めますが、この法律は業種・業界の限定がありません160。「業務委託」は物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供を広く含み、規制対象となる業種の制限がないため、あらゆる業種業態の委託者がまねく適用対象になります60。
しかも、旧下請法(現・取適法)と違って資本金の縛りもないため、これまで下請法対応が不要だった中小企業にも網がかかります10。さらに取適法では対象外だった建設工事も、フリーランス法では「業務委託」の対象となる点は建設業界にとって特に重要です77。文化庁のクリエイター向け教材でも、イラスト・デザイン・ウェブ制作といったクリエイティブ系から、大工、税理士、フードデリバリーまで多様な業界が対象になると整理されています92。
相談実績で見る「特にヤバい」業界
厚生労働省が公表する「フリーランス・トラブル110番」の相談件数を業種別に見ると、上位を占めるのは次のような業種です60。
- 配送業
- システム開発・ウェブ作成関係
- 建設業
- デザイン・ライター・映像・カメラマンなどクリエイター関係
- 舞台・演劇などの芸能関係
つまり、成果物のイメージが発注時点で固まりにくく、後出しで「これは違う」と言われがちなクリエイティブ系と、多重下請構造が根深いIT・建設・配送、そして契約条件が不透明になりやすいエンタメが、フリーランス保護法対応の最前線に立たされているわけです5962。
特にクリエイター関係では、著作権などの知的財産権の対価配分や二次利用制限を委託者が一方的に定めるケースがフリーランス法上の「不当な経済上の利益の提供要請」(法5条2項1号)に該当し得るとされており、報酬の話だけで済まない論点を抱えています59。
公取委が実際に「指導」に入った業界
法律の建て付けだけでなく、公取委がどの業界に実際に指導のメスを入れたかも重要なシグナルです。
2025年3月28日、公取委は45社に対して指導を実施しました8188。集中的な調査対象となった業種は次の4つ。
- ゲームソフトウェア業
- アニメーション制作業
- リラクゼーション業
- フィットネスクラブ
具体的には、ゲーム会社がイラスト制作や漫画制作を委託する際に給付受領日や報酬額を明示していなかったり、支払期日を「請求書提出日基準」「検収日基準」に設定して60日ルールに抵触するおそれがあったりする事例8791、アニメーション制作会社が原画作成・音響演出の委託で検査完了日や報酬額・支払期日を明示していない事例87、リラクゼーション業の整体施術やフィットネスクラブのパーソナルトレーニング委託で場所・期日・支払期日の明示が抜けている事例など、生々しい実態が公表されました8790。
さらに2025年12月10日には、放送業と広告業を対象に128社への指導が公表されています9699。テレビ番組制作や広告制作の現場では、そもそもフリーランスへの依存度が高く、口頭発注や事後的な条件変更が慣行化していた領域だけに、影響は小さくありません。
プラットフォーム型ビジネス──フードデリバリーや芸能事務所
フードデリバリーのようにデジタルプラットフォームで委託者とフリーランスがマッチングされるビジネスも、無関係ではいられません62。プラットフォーム事業者が自ら委託者となる「再委託型」ではプラットフォーム自身が適用対象となり、あっせん仲介型でも取引実態から実質的に事業委託者と評価できる場合には規制対象となります17。Uber Eatsの配達パートナーについて労働組合法上の労働者性を認めた東京都労働委員会の命令もあり、ギグワーカーの保護は法制度全体で強化される流れにあります4346。
芸能・エンタメ業界も従来から公取委「人材と競争政策に関する検討会報告書」(2018年)でマークされてきた領域で、移籍制限や専属義務、成果物の利用制限などが優越的地位の濫用として問題視されてきました358。フリーランス法の施行で、こうした慣行はさらに明確に規制の射程に入りました2。
実態調査で見えた「認知度が低い=リスクが高い」業界
公取委・厚労省の法施行前実態調査(2024年10月)では、建設業、医療・福祉、農業・林業で法の認知度が他業種より低いという結果が出ています71。認知度が低いということは、知らないうちに違反しているリスクも高いということです。
また、契約条件の明示(法3条)、報酬支払期日(法4条)、遵守事項(法5条)の各観点で問題行為が多く見られた業種として、建設業、生活関連サービス業・娯楽業、宿泊業・飲食サービス業、医療・福祉、情報通信業、学術研究・専門技術サービス業などが挙げられており84、買いたたきについては特に教育・学習支援業、学術研究・専門技術サービス業、情報通信業でフリーランス側が「一方的に決定された」と回答した割合が高い結果となりました79。
大企業と中小企業では影響の質が違う
同じ「業界」でも、企業規模によって痛みの種類は異なります。すでに取適法(旧下請法)対応やハラスメント対策を整えている大企業は、その適用範囲をフリーランスに拡張するイメージで対応できるため、負担は相対的に軽い10。一方、資本金1,000万円未満で旧下請法の適用がなかった中小企業は、法対応の社内制度をゼロから作る必要があり、負担が大きくなります10。
まとめ──「フリーランスに何かを頼んでいる」なら全業界が当事者
改めて整理すると、フリーランス保護法は業種を問わず適用される一方、公取委の指導実績や相談件数の分布から見て、特に警戒すべき業界は以下のあたりです。
- クリエイティブ系(デザイン、ライター、映像、イラスト、漫画、アニメ、ゲーム)608196
- IT・システム開発・ウェブ制作60
- 建設業(取適法では対象外だった建設工事もカバー)77
- 配送・運輸、フードデリバリー等プラットフォーム型1760
- 放送・広告96
- エンタメ・芸能・舞台260
- リラクゼーション業、フィットネスクラブなどの店舗型サービス81
- 医療・福祉、宿泊・飲食、卸売・小売など認知度・遵守度が低い業種7184
「フリーランスに何かを頼んでいる企業は全員当事者」。これがフリーランス保護法をひと言で表す最も正確な要約かもしれません。まずは自社の委託先リストを棚卸しし、契約条件明示・60日ルール・禁止行為の3点セットから点検を始めるのが実務的な第一歩となります731。
AIの回答には誤りが含まれる場合があります。実際の文献もあわせてご確認ください。
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