LB011_2025年に最も言及された最高裁の判例
2026/08/26
2025年に最も多く言及された最高裁民事判例:ピンク・レディー事件
はじめに(前置き)
「言及回数」を厳密に計数することは困難ですが、Business Lawyers掲載記事のうち2025年に公開・更新された記事群を中心に検索・確認したところ、ピンク・レディー事件最高裁判決(最判平成24年2月2日・民集66巻2号89頁) が、2025年に最も繰り返し引用された最高裁民事判例の一つと判断できます106。2025年3月4日公開の解説記事「パブリシティ権とは?肖像権・著作権との違いや侵害の判断基準」(石井宏之弁護士)は、判決の要旨・調査官解説・射程・補足意見までを繰り返し引用し、記事全体の理論骨格に据えています515253545558868791。加えて、生成AIをめぐる2025年前後の実務論点(学習用データの利用、著名人の肖像・声の利用等)でも同判決が繰り返し参照されており6265899499、生成AI時代の到来と相まって参照頻度が高まったと考えられます。
なお、同じ2025年公開記事では最判平成24年2月20日「多摩談合事件」(民集66巻2号796頁)も詳細な単独論考の対象になっており7172737678、独禁法実務では極めて重要な判例です。ただし、掲載された記事の広がり(パブリシティ権・肖像権・生成AI・広告実務・エンタメ実務にまたがる)という点でピンク・レディー事件のほうが引用の裾野が広いという特徴があります。
事案の概要
原告はデュオ「ピンク・レディー」のメンバー2名、被告は週刊誌の出版社です106。被告は、原告らに無断で、原告らの白黒写真計14枚を、ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法を解説し、あわせて子供の頃に同ダンスを真似ていた芸能人の思い出話を紹介する記事に使用しました106。写真は約200頁の雑誌のうち3頁の中で使われ、サイズは縦2.8cm×横3.6cm~縦8cm×横10cm程度でした106。原告らは、この掲載行為がパブリシティ権を侵害するとして、不法行為に基づく損害賠償を請求しました106。
最高裁の判断
最高裁は、まずパブリシティ権の法的根拠と性質について、氏名・肖像等は「個人の人格の象徴」であり、個人は人格権に由来してこれを「みだりに利用されない権利」を有するとしたうえで、肖像等が販売促進の顧客吸引力を持ちうる場合、その顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)は肖像等それ自体の商業的価値に基づくものとして、人格権に由来する権利の一内容を構成すると判示しました588891。
そのうえで、無断使用行為が違法となる場面を三類型に整理しました1068688。すなわち、①氏名・肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、②商品等の差別化を図る目的で氏名・肖像等を商品等に付す場合、③氏名・肖像等を商品等の広告として使用する場合、といった「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」には、パブリシティ権侵害として不法行為法上違法となるとしました1068688。
本件の当てはめでは、記事はダイエット法解説と芸能人の思い出紹介という独立の情報的内容を持ち、写真の大きさや扱いも記事に付随する程度にとどまるため、「専ら顧客吸引力の利用を目的とする」とはいえないとして、パブリシティ権侵害を否定しました106。
判決の意義
第一に、それまで下級審裁判例の集積で承認されてきたパブリシティ権について、最高裁として初めてその法的性質と侵害基準を明示した点にあります5891。学説上、財産権説と人格権説の対立がありましたが、本判決は「人格権に由来する権利」と述べており、人格権説を採用したと一般に理解されています5891。
第二に、侵害成立の場面を三類型+準ずる場合に限定的に画したことです。表現の自由・報道の自由との調整、コンテンツ取引の予測可能性の確保という観点から、肖像権侵害のような総合考慮ではなく、商品化と広告利用の場面に画するアプローチが採られています6289。金築誠志裁判官の補足意見は、写真と記事の大きさ・扱いを比較し、「記事は添え物で独立した意義を認め難い」場合等には「専ら」といってよいと述べ、「専ら」基準の硬直的解釈を戒めています88。
第三に、差止請求の可否について明言はしませんが、「顧客吸引力を排他的に利用する権利」と述べる説示から、差止請求も可能と解する余地を残しました5690。調査官解説(中島基至「最判解民事篇平成24年度(上)」)も、排他的権利と説示されている以上、差止めの可否を否定する趣旨ではないと整理しています5690。
射程と派生論点
本判決はパブリシティ権の主体を自然人に限定する趣旨と理解され、法人・キャラクター・アバターは固有の主体になりにくいと解されています54。また、「物のパブリシティ権」は競走馬の名称使用が争われたギャロップレーサー事件(最判平成16年2月13日・民集58巻2号311頁)で否定されており、本判決はこれと整合する枠組みです64107。
譲渡性については、人格権説を採ることから譲渡困難とする裁判例(FEST VAINQUEUR事件・知財高裁令和4年12月26日判決)と、財産的利益に着目して譲渡の余地を認める裁判例(愛内里菜事件・東京地裁令和4年12月8日判決)が併存しており、決着はついていません6768。ライセンスは肯定的に扱われる傾向にあります5760。
2025年時点で再び脚光を浴びる理由
同判決が2025年に多く引用される最大の理由は、生成AIをめぐる実務論点との親和性です。著名人の写真・動画・音声を無断で学習用データやプロンプトに利用する行為、著名人の肖像・声で生成した画像・音声を商品や広告に利用する行為の適法性を検討する際、三類型基準がそのまま判断枠組みとして援用されています6289102。経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」も、生成AIで作成した肖像・声について、実在の著名人との同一性がある場合はパブリシティ権侵害の可能性を検討すべきとし、本判決の枠組みを前提とした対応策を示しています99。
学習段階のみでは商品化・広告利用が直接問題とならないため一般には侵害の可能性は低いと整理される一方62102、生成物の商品化・広告利用段階では、まさに三類型の第②・第③に該当し得るため、慎重な検討が必要と説かれています99102。このように、13年以上前の判決でありながら、AI技術の普及に伴って実務適用の射程が拡大している点が、2025年の記事群での高頻度参照につながっているとみられます。
まとめ
ピンク・レディー事件最高裁判決は、①パブリシティ権を最高裁として初めて承認し、②その性質を人格権由来と位置づけ、③侵害成立を「専ら顧客吸引力の利用を目的とする」三類型に限定した、パブリシティ権法理の礎となる判例です588691106。生成AI・広告・SNS実務など2025年の主要論点でこの枠組みが繰り返し参照されており、掲載データベース上でも2025年の実務記事において最も高頻度で引用される最高裁民事判例の一つとなっています5186102。
AIの回答には誤りが含まれる場合があります。実際の文献もあわせてご確認ください。
----------------------------------------------------------------------
オンライン法律事務所タマ
東京都東大和市上北台3-429-24 サンライズビル305
電話番号 : 080-7026-2558
弁護士による非対面の法律相談
弁護士による企業法務の相談
弁護士との顧問契約で築く信頼
----------------------------------------------------------------------